札幌高等裁判所 昭和26年(う)202号 判決 1951年5月28日
控訴人 被告人 伊藤佐太雄
弁護人 岩沢惣一
検察官 木暮洋吉関与
主文
本件控訴を棄却する。
当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人岩沢惣一の控訴趣意は別紙のとおりである。
道路交通取締法第七条第二項第三号の「酒に酔い……諸車又は軌道車を運転すること」という規定の「酒に酔い」とは飲酒の結果急性アルコール中毒症に陥り、諸車又は軌道車の正常な運転が出来ない虞がある程度に達している状態をいうものと解すべきである。然るところ原判決挙示の証拠によると被告人は酒に弱いのであつて当日午後六時頃自宅で焼酎二合を飲み急性アルコール中毒症に陥り乍ら被告人の肩書自宅から同市内の緑町土田方迄集金の為側車附二輪自動車を運転して二回往復し更に原判決判示の如く午後九時頃同車を運転したものであるがその頃に至つても尚中毒症状は継続しその為、(イ)運転している場所が何処であるかも確認せず遂に通行禁止区域内に自動車を乗入れ、(ロ)ブレーキのノツトピンが外れていたのを知り乍ら操縦者として適切な措置を採らずに運転していたことが認められるから被告人は午後九時頃もなおその中毒症状は右自動車の正常な運転が出来ない虞のある程度に達していたものと言はざるを得ない。
従つて原判決には理由のくいちがいはないし又記録に現はれている諸般の情状によると原判決の量刑は不当に重いとも考えられない。
本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条により棄却し、当審の訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り全部被告人の負担とし、主文の通り判決する。
(裁判長判事 西田賢次郎 判事 臼居直道 判事 河野力)
弁護人岩沢惣一の控訴趣意
原判決は理由にくいちがいがある。
原判決は「被告人は酒に酔つていたにかゝわらず、昭和二十五年十月十七日午後九時頃小樽市稲穂町東三丁目二十四番地自宅前から同町東八丁目河村ふとん店附近迄側車附二輪自動車を運転したものである」と判示して、被告人を罰金千円に処したが、理由にくいちがいがあると思う。この道路交通取締法第七条第二項第三号の酒に酔ひ云々と云うのは酩酊の強度のもので身体的運動失調を来たし満足な運転ができないで運転の過ちに因つて人畜に危害を及ぼすが如き状態を謂うのであつて、酒を飲んでる人全部が悪いということではないと思う。而して被告人は午後六時頃焼酎二合を飲んだのであるが、其後緑町の土田方に二回も集金に行つて帰つて来ているので三回目に出る頃は既に二時間も経つているから運動失調など全然無く満足な運転はできたのである。ただ街路燈をこわしたのは、後に引返すために急カーブを切つたので道路が狭かつた為こわしたので酒に酔つて無謀な運転をした訳でない。被告人は非常に恐縮して其被害を直ぐ弁償して今後は充分に気をつけると言つて居りますから何卒無罪の御判決か執行猶予の御判決を賜らんことを切望いたします。